肝腎症候群(HRS-AKI)の診断と治療|肝硬変患者のAKI対応

薬剤に関する注意: 記載する薬剤名、用量、投与方法は一般的な参考例です。実際の診療では、患者状態、使用製剤の電子添文・最新安全情報、各施設のプロトコルに基づいて判断してください。

肝腎症候群HRS-AKI:緊急性確認、原因検索、体液量評価と再評価、治療・専門医連携の4段階
肝腎症候群の診療フロー。薬剤・数値は参考情報です。

1分で確認:肝硬変患者のCrが上がったら

① AKIと緊急性を確認する

  • 肝硬変+腹水でCr上昇・尿量低下なら、AKIを評価
  • ショック・出血・敗血症の対応と、緊急透析の要否を優先

② 誘因・別の原因を探す

  • 感染(特にSBP)・出血・脱水・薬剤を確認
  • 尿検査・培養・腹水検査・画像を病態に応じて選ぶ。HRSと決めつけない

③ 体液量を評価し、再評価する

  • 必要時に循環を是正し、24時間以内にCr・尿量の反応を確認
  • 正常体液量・過剰例には一律に輸液せず、診断目的の48時間アルブミン投与を全例に行わない

④ HRS-AKIなら治療・専門医連携

  • 診断条件を確認し、アルブミン+血管収縮薬。効果・酸素化・体液量を毎日再評価
  • 肝臓専門医・集中治療・腎臓内科と連携し、肝移植評価へ

① AKIと緊急性を確認する

HRS-AKIを考える入口

2024年ICA–ADQI基準では、HRS-AKIは腹水を伴う肝硬変患者のAKIの一病型として扱う [1]。

  • 48時間以内に血清Crが0.3 mg/dL以上上昇
  • または7日以内に血清Crが基礎値の1.5倍以上へ上昇
  • または尿量0.5 mL/kg/時以下が6時間以上持続

肝硬変では筋肉量低下や体液貯留によりCrが低く見えることがある。Cr 1.5 mg/dL未満でも、経時変化を満たせばAKIを見逃さない。

最初に緊急性を判断する

  • ショック、敗血症、活動性出血
  • 高K血症、重篤・進行性アシドーシス
  • 肺水腫・酸素化障害
  • 尿毒症性心膜炎・脳症など

これらがあればHRS-AKIの確定を待たず、蘇生、原因治療、腎代替療法の準備を進める。

② 誘因と別のAKI原因を同時に探す

まず確認すること

領域確認項目
経過過去Cr・eGFR、尿量、血圧、体重、入出量
誘因発熱・感染、消化管出血、嘔吐・下痢、腹水穿刺、過度の利尿
薬剤NSAIDs、利尿薬、RA系阻害薬、造影剤、抗菌薬など
血液CBC、Cr・BUN・Na・K・HCO3−、肝胆道系酵素・Bil、Alb、PT-INR、必要時乳酸
尿・画像尿定性・尿沈渣、尿蛋白、尿路閉塞を疑う場合は腎・膀胱超音波
感染血液・尿培養、胸部画像など。腹水があれば診断的腹水穿刺を検討

入院中の非代償性肝硬変・腹水患者では、腹痛や発熱が目立たなくてもSBPを疑う。腹水多形核球数250/mm³以上はSBPを支持し、培養結果を待たず治療を検討する。

HRS-AKIは純粋な機能性腎障害とは限らない

2024年基準では、尿細管障害、蛋白尿、既存CKDがあってもHRS-AKIの併存を否定しない。敗血症性AKI+HRS-AKI、低容量+尿細管障害などの混合性もある。

Pitfall: 肝硬変ではFeNaが低くなりやすく、FeNa<1%だけではHRS-AKIを診断できない。利尿薬、CKD、尿量、尿沈渣、治療反応を含めて解釈する。高ビリルビン血症では尿沈渣の細胞・円柱判定も難しくなる。

③ 体液量に応じて介入し、24時間以内に再評価する

輸液は「AKIだから」ではなく体液量で決める

  • 消化管出血:止血と血液製剤を含む蘇生
  • 明らかな低容量:平衡晶質液を基本に補正
  • SBP:抗菌薬とアルブミンを疾患別プロトコルで検討
  • 体液過剰・肺水腫:輸液・アルブミンを中止し、除水方針を検討

利尿薬や下剤は、過度の利尿・下痢や低容量が疑われれば中止・調整する。すでに体液過剰なら一律中止・一律輸液ではなく、うっ血を含めて個別に判断する。

旧基準との違い

従来の考え方2024年ICA–ADQI
利尿薬中止+アルブミン1 g/kg/日を2日間行い、改善しなければHRS必要な症例だけ循環を是正し、24時間以内に反応を評価
48時間アルブミン負荷が診断の前提全例への48時間アルブミン投与を診断要件にしない
腎実質障害の所見があればHRSを除外尿細管障害・蛋白尿・CKDとHRS-AKIは併存し得る

体液量評価が不明確な場合に限り、2024年コンセンサスは晶質液250–500 mLまたは20–25%アルブミン1–1.5 g/kg(アルブミン蛋白量)の負荷試験を挙げる。投与後は24時間以内にCr・尿量の反応を評価する。これは全例への定型投与ではなく、正常体液量・体液過剰では機械的な負荷を避け、肺水腫や低酸素などの所見を踏まえて判断する [1]。

④ HRS-AKIを診断し、治療する

2024年ICA–ADQIの診断要点

2024年コンセンサスが提案する診断要件は以下の4点である [1]。

  1. 腹水を伴う肝硬変
  2. AKIのCr基準または尿量基準を満たす
  3. 体液量を評価し、臨床的に必要な場合に十分な循環是正を行っても、24時間以内にCr・尿量の改善がみられない
  4. 別の原因がAKIの主病態であることを強く示す所見がない

24時間は必要時の循環是正への反応を評価する時間枠であり、全例を一律に確定診断する期限ではない。「HRSらしい所見があるか」だけでなく、ショック、閉塞、糸球体腎炎、薬剤性腎障害、急性尿細管障害などが主因かを継続的に見直す。

アルブミン+血管収縮薬

HRS-AKI診断後は、血管収縮薬と20–25%アルブミンによる治療を速やかに検討・開始する。アルブミンは体液量で調整し、過剰なら中止する [1]。

治療実務上の要点
20–25%アルブミン国際コンセンサスの参考量は20–40 g/日。毎日体液量で調整し、体液過剰・肺水腫なら直ちに中止
ノルアドレナリン国内2020年版がアルブミンとの併用を提案。国際コンセンサスではICU・中心静脈ラインで持続静注し、MAPと尿量・Cr反応を評価 [1,2]
テルリプレシン2024年国際コンセンサスの第一選択。重篤な呼吸不全・虚血に注意。国内公的登録では未承認で、今回、国内承認を確認できていない [1,6,9]
ミドドリン+オクトレオチド国際コンセンサスでは、テルリプレシン禁忌またはノルアドレナリン投与のためのICU移送ができない場合に限る代替候補。国内適応・運用は要確認 [1]

国際コンセンサスのノルアドレナリンのレジメンは、0.5–3 mg/時の持続静注である。本文は開始前MAPから10 mmHg以上上昇しない場合に4時間ごとの増量を推奨し、Table 2は0.5 mg/時刻み・最大3 mg/時を示す。尿量・Cr・有害事象も評価し、ICU・中心静脈ラインで管理する [1]。これは国内承認用量の提示ではない。国内電子添文にはHRS-AKI専用の用法・用量はなく、使用製剤と施設プロトコルを確認する [5]。

テルリプレシンはCONFIRM試験でHRSの回復を増やした一方、生存利益は確立しておらず、呼吸不全に注意が必要である [8]。米国添付文書では、低酸素・呼吸症状の悪化や進行中の虚血を禁忌とし、SpO2が90%未満なら開始せず、投与中に90%未満へ低下した場合は中止する。これは海外の安全情報であり、国内承認・使用条件を意味しない [9]。

国内第III相試験jRCT2051250072は、2026年4月22日の最終公表情報で未承認薬として登録され、2026年1月29日中止・進捗「募集中断(Suspended)」となっている。進行中の治験としては扱わない [6]。国内2026年版ガイドラインは刊行案内を確認したが、本文は未取得のため、国内推奨の記載は確認済みの2020年版に基づく [2,10]。

関連ツール:ノルアドレナリンγ・投与速度換算。調製条件と指示量が決まった後の算術換算に限って使用する。

毎日みる項目

  • Cr、尿量、Na・K・酸塩基平衡
  • MAP、心拍数、末梢循環
  • 酸素化、呼吸状態、肺水腫
  • 体重、浮腫、腹水、入出量
  • 感染・出血など誘因の治療反応
  • 血管収縮薬による虚血、不整脈などの有害事象

治療の終了・方針変更

2024年コンセンサスでは、次の場合に血管収縮薬の終了を推奨する。

  • Crが基礎値から0.3 mg/dL以内まで回復
  • 重篤な有害事象
  • 最大耐容量で48時間治療しても腎機能が改善しない(コンセンサス本文。Table 2は48–72時間と記載)
  • 腎代替療法が必要
  • 肝移植を実施
  • 最長14日間に到達

反応が乏しい場合は、用量不足だけでなく、感染の遷延、循環評価、尿細管障害・糸球体疾患・閉塞など診断そのものを再検討する。

肝移植と腎代替療法

  • 肝移植が根治治療であり、血管収縮薬への反応にかかわらず適格例では早期評価を進める
  • 腎代替療法は高K血症、アシドーシス、体液過剰、尿毒症など通常の緊急適応と全身状態から個別に判断する
  • 腎代替療法はHRS-AKI自体を治す治療ではなく、肝移植や肝機能回復までのbridgeとしての位置づけ、予後、治療目標を共有する

HRS-AKIを予防する

  • NSAIDsなど腎毒性薬を回避し、感染・出血・下痢・過度の利尿を早期に是正する
  • 排液量が5 Lを超える腹水穿刺では、全排液量1 Lあたりアルブミン6–8 gを目安に投与する(AGA 2025。EASL 2018は8 g/L)。例えば6 L排液なら36–48 gであり、5 L超過分の1 Lだけを計算対象にはしない。製剤濃度、体液量、施設基準を確認する [4,7]
  • SBPでは抗菌薬にアルブミンを併用し、循環・腎機能を追跡する
  • 非SBP感染に対する予防的アルブミンや、血清Alb値だけを3.0 g/dL超に保つ目的の一律投与は行わない

関連記事・ツール

参考文献

  1. Nadim MK, et al. Acute kidney injury in patients with cirrhosis: ADQI and ICA joint multidisciplinary consensus meeting. J Hepatol. 2024;81:163-183.
  2. 日本消化器病学会・日本肝臓学会. 肝硬変診療ガイドライン2020 改訂第3版.
  3. 中国・四国・九州地区教育病院腎臓内科医有志. 腎臓内科レジデントマニュアル 第9版. 診断と治療社; 2023:264-269.
  4. European Association for the Study of the Liver. EASL Clinical Practice Guidelines for the management of patients with decompensated cirrhosis. J Hepatol. 2018;69:406-460.
  5. PMDA. ノルアドリナリン注1mg 電子添文. 2026年4月改訂.
  6. 厚生労働省. 日本人HRS患者を対象としたテルリプレシン第III相試験(jRCT2051250072). 未承認薬として登録; 2026年1月29日中止、進捗「募集中断(Suspended)」; 2026年4月22日最終公表.
  7. American Gastroenterological Association. Management of ascites, volume overload, and hyponatremia in cirrhosis. 2025. Best Practice Advice 6.
  8. Wong F, et al. Terlipressin plus Albumin for the Treatment of Type 1 Hepatorenal Syndrome. N Engl J Med. 2021;384:818-828.
  9. DailyMed. TERLIVAZ (terlipressin), US prescribing information. 2026年6月改訂(海外安全情報).
  10. 南江堂. 肝硬変診療ガイドライン2026 改訂第4版・刊行案内. 2026年10月16日確認時点で10月26日発売予定。本文は未取得.

本記事は医療従事者向けの参考情報であり、個々の患者の診断・治療を代替するものではありません。薬剤、用量、投与法、評価時点は、患者状態、最新の電子添文・安全情報、各施設の基準を優先してください。主要論点の一次資料照合日:2026-10-16。国内2026年版本文等は未確認。運営医師による内容確認:2026-10-21。編集・AI利用方針 / 誤り・更新情報のご連絡

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この記事を書いた人

都内の総合病院に勤務する内科医。総合内科・腎臓内科での勤務経験をもとに、RenalNoteの記事企画・編集・医学レビューを担当しています。国内外のガイドラインと国内電子添文を照合し、臨床で素早く参照できる形に整理します。